大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和35年(ツ)17号 判決 1961年10月10日

上告人 三木常資

被上告人 協同組合中野専問店会

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由は末尾添付の上告理由書及び追加上告理由書記載のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

第一点及び第二点について。

所論は要するに、上告人と被上告人との間に成立したいわゆるチケツト使用に関する契約に基く上告人の債務の性質につき原判決の示した判断を攻撃し、理由不備もしくは経験則違背の違法があると主張するものに外ならない。しかし、原判決挙示の証拠によれば、上告人(商品購入者)、被上告人(組合)、加盟店(組合員)の三者間の関係につき原判決のような認定ができない訳ではなく、原判決は右認定の事実関係に基き上告人の被上告人に対し負担する債務はその判示のような性質をもつもので、もはや商品代金債務そのものではなくなつていると判断したのであつて、その判断は十分首肯し得るところである。(この点についてはなお後に第四点及び第八点につき述べるとおりである。)甲第一号証(チケツト使用契約書)その他原判決挙示の各証拠に「免責的債務引受」「立替払」もしくは「新たな割賦金債務の発生」を直接に表現する文言がないというだけの理由で、所論のように、いわゆるチケツト使用に関する契約につき原判決のとつた解釈を排斥すべきものとは断じえないのである。また原判決は所論のように被上告組合と組合員との関係のみから、上告人と被上告組合の間の所論の合意の存在を推認したものといえないこと既に述べたところから明らかである。なおチケツト利用者は商品購入前でもチケツト使用規定に服すのでなければチケツトの発行を求められない筈であり従つてこの規定は被上告組合と組合員との内部関係を規律するに止まるものではない。よつて原判決に理由不備ないし経験則違背ありとの所論はいずれも採用できない。

第三点について。

しかし、被上告組合は中小企業等協同組合法による事業協同組合であるというのであるから、同法の規定により組合員のなす販売の事業のため共同施設を設けることが認められているのであり(同法第九条の二第一項第一号参照)、また所論によれば被上告組合定款第七条により組合員の事業に関する共同施設として組合員の取扱品についてチケツトを発行することができるというのであるから、被上告組合が組合員(加盟店)から商品を購入しようとする者との間にチケツト使用契約を結び、組合員の店舗において商品を購入し得るチケツトを交付し右チケツトによつて組合員から商品を購入した者より商品代金相当額の償還を受けること(反面被上告組合はチケツトによつて商品を販売した組合員にこれと同額の支払をすること)は、当然その目的の範囲内の行為としてこれをなし得るものと解すべきであり、これを行う具体的の方法として、原審の認定したように、商品購入者の組合員に対する代金債務を組合において免責的に引受け、その代償として右債務額を商品購入者から被上告組合に償還せしめる方法をとつたとしても、右はチケツト発行による組合員のための共同施設の運営の合理的な方法として是認さるべきものであつて、所論のように中小企業等協同組合法及び前記定款の規定を狭く解し組合員の店舖から商品を購入した者のために購入代金を貸付けもしくは代金債務の免責的引受をすることができる旨の明文のないことから、前記被上告組合の行為をその目的の範囲外もしくは権利能力の範囲外のものというは当らない。右に商品購入者のため代金債務の免責的引受をするといつても、もとより専ら商品購入者の利益のためにのみするものではなく、実質的には組合員の代金債権回収のため考案された技術的な方法にすぎず、窮極的には右組合員の事業活動に資するためのものであつて、中小企業等協同組合法及び前記定款の規定の趣旨にそうものというべきである。原判決には中小企業等協同組合法等の解釈、適用を誤つた違法はなく論旨は理由がない。

第四点及び第八点について。

原判決の確定したところによれば昭和三十年十一月二十二日頃被上告組合と上告人との間に成立したチケツト使用に関する契約の内容は、上告人が被上告組合の交付したチケツトにより被上告組合の組合員から商品を購入したときはその代金額(チケツト券面額)を四回に分割して毎月末日限り被上告組合に持参支払うというのであつて、上告人は右チケツトを使用して組合員から時計等代金二万九千六百二十円相当の商品を購入したものであり、被上告組合、組合員(加盟店)、上告人(商品購入者)の関係は、まずチケツトを利用して組合員より商品を購入しようとする者は組合が作成したチケツト使用契約の承認の上組合とチケツト使用に関する契約を結んで組合よりチケツトの交付を受け、右チケツトを使用して組合員より商品を購入するのであるが、購入者が組合員の店舖において購入した商品の価格に相応するチケツトを組合員に交付すると、組合員はこのチケツトを組合に送付し組合は購入者より割賦金の支払を受けると否とに拘わらず送付されたチケツトの券面額相当の金員を組合員に支払うのであり、購入者よりの金員の回収は全く組合の責任においてなし、組合員が直接購入者に対して代金を請求することは予定していない、かように組合は代金未納の危険を負担するが故にかえつて当該チケツトを送付して来た組合員に購入者の組合に対する債務を保証せしめている関係にあるというのである。

右によればチケツト使用による商品の売買が上告人と組合員との間に成立したとみるべきことは疑を容れないところである。しかして売主たる組合員は、上告人より受領したチケツトを被上告組合に交付しこれと引換に被上告組合からチケツト券面額に応じ定められた金額の支払を受けることによつて、上告人との売買に基く代金債権の満足を得るもので、上告人は、売主たる組合員に代金相当額のチケツトを交付した以上、もはや組合員に対し売買代金の支払をする要なきものであるけれども、他面において被上告組合との間のチケツト使用に関する契約に基き被上告組合に対し自ら使用したチケツトの券面額に相当する金員を支払うべき債務を負う関係にあるといわなければならない。以上の関係に即して考察すれば上告人がチケツト使用に関する契約において被上告組合に支払を約したのは、上告人の代金債務を消滅せしめるためにした被上告組合の出捐に対する償還の趣旨であると解されるのである。従つて被上告組合の本件において主張する債権は商品代金債権ではなく、右の趣旨において上告人との間に締結したチケツト使用契約に基く債権というべきである。ただ前記事実関係において被上告組合と組合員間の契約の詳細が明らかでないので、被上告組合が原判決のいう如く免責的に債務引受をした上で組合員に弁済をするのか、或いはかような過程を経ず上告人の債務を第三者として弁済するものであるかが十分に明らかであるといい難いけれども、前記原判決の確定した事実によれば、被上告組合が組合員に支払を了しない間においても組合員が直接購入者に対し代金の請求をすることは予定されていないというのであるから、他に格別の事情の確定されていない本件においては原判決の説くように被上告組合による免責的債務引受がなされたと解するのが妥当である。(もつとも右いずれに解するにしても、上告人は被上告組合との間のチケツト使用に関する契約において被上告組合の出捐により上告人の組合員に対する債務が決済されることを予定しその償還の趣旨でチケツト券面額の支払を約したものであり、従つて右契約に基く債権が二年の消滅時効に服する商品代金債権でないことについては差異を生じない)。

所論のように被上告組合が組合員に支払う金額が券面額そのものでなく五分の手数料名義の金額を差引いたものであつたとしても、かような差引は共同施設維持の費用として当然考えられることであり、上告人主張の如く債権取立代行の手数料と解さねばならぬ理由はなく、況んやこの説をとつて以上の判断を不当とすべきものと考えられない。また上記の過程において実質的に組合による組合員の債権の取立が果される効果をもたらすことは否定できないけれども、それは前にも述べたとおり組合員の代金債権の取立とは法律上の性質が異るのだから、右機能のみを見て直ちに前記小売商人の商品売買代金に関する時効の規定を類推適用すべきものと解するのも妥当でない。前記の如き契約関係にある以上その証拠保存の関係も自ら通常の小売商人の商品売買における場合と異るところがあり、右類推適用の十分の根拠を欠くといわざるを得ないのである。その他論旨の指摘するところはいずれも上記判断を左右するに足りない。以上述べたとおり、原判決が適法に確定した事実に基き、いわゆる加盟店方式による月賦販売契約において、常に上告人主張の如く組合はただ組合員から依頼された代金取立を行うとみなければならないものではないとし、所論の判断の下に本件の請求が商品売買代金債権に基くことを前提とする上告人の時効の抗弁を排斥したのは相当であつて論旨は理由がない。

第五点について。

所論は、被上告組合は上告人の意思に反しその商品代金債務につき免責的債務引受もしくは第三者の弁済をなし得ないというけれども、前記原判決の確定した事実によれば、被上告組合と上告人の間に成立したチケツト使用に関する契約(所論の分割払の約定もこの契約に基くものと解される)は、上告人の組合員に対する商品代金債務が被上告組合の出捐により決済されることを当然の前提として予定しているのと解されるのであつて、所論は原判決の確定したところの、右趣旨を含むチケツト使用に関する契約の成立を度外視してチケツトの発行と組合の組合員に対する前記のような支払関係(代金取立でない)を切り離し得るものと仮定して原判決を非難するに帰着し採用できない。

第六点について。

原判決中所論引用の部分は、被上告組合が商品購入者から金員を回収するのは組合員の債権を取立てるのではなく、自己の債権を行使するものであり、従つてその回収ができないときは自己の捐失に帰するものであること、それ故にその損失を防ぐために商品購入者の被上告組合に対する債務につき組合員に保証せしめた趣旨を判示したに過ぎず、その間に何らの矛盾はない。所論は原判決を正解しないもので採用に値しない。

第七点について。

原判決の認定した免責的債務引受及びその弁済をもつて所論のように第三者の弁済と同視し弁済による代位の関係が生ずべきものとしても、本件における被上告組合の請求は上告人との間のチケツト使用に関する契約に基く権利を主張するもので右契約の履行を求めるものに外ならず、所論の関係において被上告組合に帰属する商品代金債権を行使するものでないことは記録上明らかである。従つて右上告人主張の点は本件の問題外であつて原判決に影響を及ぼすべきものとはいえず論旨は理由がない。

以上述べたとおり、本件上告は理由がないから、民事訴訟法第四百一条、第九十五条、第八十九条の各規定に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 梶村敏樹 室伏壮一郎 安岡満彦)

上告理由

原判決は、「チケツトを利用して組合員より商品を購入しようとする購入者は、組合が作成したチケツト使用規定を承認の上、組合とチケツト使用契約を結び組合からチケツトを受取り、組合員の店舗において目的物たる商品を特定して引渡を受け同時に商品の価格に相応するチケツトを組合員に交付すると、組合員ではこのチケツトを組合に送付し、組合は購入者より割賦金の支払を受けると否とに拘らず送付されたチケツトの券面額相当の金員を組合員に支払うこと……が認められる」「これらの事実によれば……購入者の組合員に対する売買代金債務を免れる代償として組合に対しチケツト使用に関する契約の規定に準拠して割賦金支払債務を負担するものと解するのが相当である」と判断し、結局本件「チケツト代金」は商品の代金そのものではなく普通の割賦金支払債務であるから、民法第一七三条第一号の二年の消滅時効には罹らず、十年の消滅時効に服するものと判示しているが、上告人は次の理由により不服である。即ち、

第一点、判決に理由を附せず

原審に現われた甲第一号証、証人張間興国の証言上告本人(被告、被控訴人)の尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、上告人と被上告人(原告、控訴人)との間に被上告人作成のチケツト使用規定を承認の上チケツト使用契約が成立したことは認められるが、右チケツト使用規定には当初から商品購入代金そのままの金員を四回に分割して被上告人宛に支払うことが明記されているのであつて、決して被上告人が商品代金を免責的に引受けた結果としてその代償に新たな割賦金支払債務を上告人に負わせるに至つたものではない。チケツト使用契約には右のような免責的債務引受、立替払ないし新たな割賦金債務の発生については何等の規定がなく、他にもこれを認めるに足る証拠は全くないのである。故に原判決は右債務引受ないしその代償としての割賦金債務の発生について理由を附していないものである。

第二点、経験法則違背

仮りに、被上告人主張の如く、被上告人と組合員との間において前記商品代金の免責的債務引受、立替払の事実があつたとしても、右は被上告人と組合員との間のいわゆる組合内部関係(間接事実)であつて、上告人は関知しないところであり、被上告人との間に立替払依頼等の合意は全く存しないことは第一点において述べた通りである。然るに原判決は、右組合内部における立替払という間接事実の存在を認定しこれを前提として直ちに組合の外部関係にある上告人と被上告人(組合)との間に右立替払の合意(直接事実)が存在するものと推認した形跡が窺われる。しかし、かかる推認は著しく経験法則に違反して、間接事実と直接事実とを結びつけたものであつて違法である。蓋し一般経験上、組合内部間に一定の合意があれば、組合と外部者との間にも同一内容の合意が存在するとの法則は認め難いものであるからである。

第三点、法令の違背(中小企業等協同組合法の解釈、適用の誤)。

中小企業等協同組合法(以下単に法という)によれば、被上告人の如き協同組合は組合員のために必要な共同事業を行う事業協同組合(法第一条、第六条第一項第一号。なお協同組合中野専門店会定款第一条、第二条参照)であり、その事業は法第九条の二に列挙された事業に限り行いうるものであつて、これ以外の事業を営むこともまた定められた事業の内容を逸脱して運営することも許されないものである(中小企業庁編著、新制中小企業等協同組合法逐条解説一〇三頁参照)。

ところで、法第九条の二及び被上告人の定款第七条によれば、被上告人組合は組合員の事業に関する共同施設として組合員の取扱品の販売についてチケツトを発行すること及び組合員に対する事業資金の貸付を行うことはできるが、組合員の店舗から商品を購入した購買者のために購入資金を貸付けるとか商品代金債務の免責的引受をするとか代金の立替払をするとかの事業をなすことができる旨の規定は全くないし、また法第九条の二第一項第六号にいわゆる附帯事業と解することも無理であるし、阪りに員外者の利用と認めても限度(法第九条の二第三項)があるから、被上告人は購入者たる上告人のためにこのようなことを営むことは許されないと解すべきである。従つて協同組合にも民法第四十三条を適用し、被上告人には組合の目的制限を逸脱した右のような事業をなす行為能力及び権利能力はないといわなければならない(通説)。ところが、原判決は、被上告人が購入者である上告人(組合員ではない)のために購入商品代金債務の引受けないし立替払をして右代金債務を消滅させることができるものと判示しているので、この点において法第九条の二及び民法第四十三条の解釈、適用を誤つているものといわなければならなら。

第四点、法令の違背(経験則違背の法律判断)

既述のように(イ)被上告人が購入者のために商品代金債務の引受や立替払の事業を行うことができないが、組合員のためには事業資金の貸付の事業を行うことができること(ロ)上告人の被上告人に支払う金員は上告人が組合員から商品を購入した代金そのままの金額であること(ハ)商品代金債務は売買成立当初から四回払と定まつていること(ニ)その支払先も当初から被上告人と定まつていること、並びに証人張間興国の証言によれば(イ)被上告人が組合員から廻付されたチケツトに対して交付する金員は四回交付でなく一回交付であり(ロ)その交付金額はチケツト券面額ではなくその額から五分の手数料を差引いた残額であること(ハ)その手数料は購入者から徴収するものではなく組合員から徴収していることが認められること等に徴すれば、被上告人は上告人のために商品代金債務を免責的に引受けるものではなく、組合員のためにチケツト券面額相当の商品代金分割払債権を担保として五分の手数料を差引き残額を一時に割引貸付をなし、被上告人がその担保債権を所定の分割支払期に回収し、これを貸付金の弁済に充当するものであると解するのが正当というべきである。従つて、また、被上告人が上告人から弁済を受ける債権は、上告人が組合員から商品を購入した当時成立した商品代金分割払債権そのものであり、右債権の弁済受領者は当初から被上告人であると解するのが正当であると思量する。然るに原判決は、被上告人が上告人のために商品代金分割払債務を引受け一時に立替払をなして債務を消滅せしめ、その代償として別に上告人に対し割賦金債権を取得したと判断を下しているが、かかる重大な判断に到達する過程について合理的理由を附していないから、著しく経験法則に違背した法律判断をなしたものであつて、この点において法令違背が存するといわなければならない。

第五点、法令違背(実体法規の解釈、適用の誤り)

被上告人が仮りに上告人(購入者)のために立替払をなす業務を行うことが中小企業等協同組合法上許されているとしても、被上告人は上告人の商品代金債務を弁済することにつき利害の関係を有する第三者とは解し難いし、また、上告人は組合員の店舗から最初から二年の消滅時効に罹る商品代金そのものを、被上告人に四回に分割して支払うという条件で商品を購入したものであるから、四回払の期限の利益を放棄して被上告人によつて右代金全額を一時に立替払をしてもらう必要も利益もなく、況んや二年の消滅時効に服する商品代金債務を被上告人に弁済してもらい代りに十年の消滅時効に服する普通の割賦金支払債務を負うことは上告人にとつて甚だしく不利であることは明かであるから上告人の意思に反すると認むべきである。故に被上告人は上告人の意思に反して商品代金債権を免責的に引受け立替払をすることはできないものであつて、(民法第四七四条第二項)その代償として上告人に対する割賦金債権を取得することはできないと判断すべきである。ところが、原判決は、被上告人ば上告人のために商品代金債務を引受けてその債務を弁済し、その代償として十年の消滅時効に服する割賦金債権を取得するものと判示したのであるから、この点において第三者による債務の弁済ないし債務の引受の法律要件の解釈及び適用を誤つたものであるといわなければならない。

第六点、理由齟齬

なお、原判決はその理由において、「購入者よりの金員の回収は全く組合の責任においてなし、……組合は代金未納の危険を負担する」と判示しているが、すぐその後において組合員に購入者の組合に対する債務を保証せしめていることが認められる」と判示しているので結局組合は代金未納の危険を負担しないことを意味することになり、論理的に矛盾した判断を示しているものであつて、この点において理由にくいちがいがあるといわなければならない。

原判決は、以上のような種々誤つた事実判断並びに法律判断にもとずき、被上告人が本訴において請求しているチケツト代金なるものは上告人が組合員より購入した商品の代金そのものではなく、被上告人が右売買代金債務を免責的に引受けた代償として支払うべき割賦金支払債務であると判断し十年の消滅時効に服するものであると判示したものであるから破棄を免れないものである。

追加上告理由書

第七点、法令の違背(実体法規の解釈適用の誤)

仮りに、被上告人が組合員に対し上告人に代つて商品代金債務の第三者弁済(立替払)をなすことができるとしても、代位弁済をなした被上告人は求償権を取得し、その求償をなすことができる範囲内で組合員が有していた商品代金分割払債権が被上告人に移転し、被上告人がこれを行使するものであるから、被上告人の上告人に対する本件請求権は右商品代金分割払債権そのものに外ならないと解すべきである。ところが、原判決は代位弁済の解釈、適用を誤り、商品代金債権は消滅したと判示しているので、この点において判決に影響を及ぼすこと明かなる法令の違背があるといわなければならない。

第八点、法令の違背(実体法規の解釈、適用の誤)

原判決に現われた証拠及び弁論の全趣旨を綜合して明かにされたとおりチケツトは譲渡が禁止されており、有価証券ではなく、組合員及び上告人の間における売買契約の対価的関係に立つものではないから単に上告人に商品代金分割払の特権を賦与すると共に、組合員に対し、被上告人をして商品代金回収業務を代行せしめる特権と義務とを与えた商品販売促進手段たる証券に過ぎないと解するのが正当といわなければならない。故に「チケツト代金」なる語は意味が頗る曖昧で法律用語としては適正を欠くものである。惟うに売買契約の性質及びチケツト使用規定の内容に徴すれば、いわゆる「チケツト代金」なるものはチケツトを利用して組合員から購入した商品の対価として取立代行機関たる被上告人(組合)に分割して支払うべき代金であると解するのが正当とすべきである。ところが原判決は被上告人の用いる「チケツト代金」なる語の曖昧性、矛盾性を解明することに窮した結果チケツト使用規定を不当に拡張解釈して特異の迂廻的法律構成を考え、即ち、商品代金債務は被上告人の引受及び弁済によつて消滅し、その代償として、被上告人は上告人に対し別個の金銭割賦払債権を取得するものと解釈し、「チケツト代金」は右割賦金債権であると判示したのである。

また「チケツト代金」は上告人が組合員から商品を購入すると同時に発生したものであつて、被上告人に商品代金債務を引受けてもらつて後に発生したものではないと解すべきことはチケツト使用規定によつて明かである。

故に原判決は、「チケツト代金」の性質を誤解し、且つ「チケツト代金」の発生時期を誤解しているものであつて、この点において売買契約及びチケツト使用規定ないし契約の解釈、適用を誤つたものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことは明かである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例